(2013.5.1 update)
米国から一時帰国した堀内元、日本を拠点に活動する堀内充の兄弟が久しぶりに顔を合わせた。
かつての“芸術の子どもたち”が今も変わらず示すのは、驚異の身体能力、少年のようなさわやかさ、そしてバレエに寄せる純粋な思いである。
舞台人としての誇りと自覚を
もともとフランスの王様と貴族のマナーから生まれたわけですものね。新国立劇場ができて15年ですけど、日本は民間の先達の努力があって今がある。でもダンサーの置かれている状況はなかなかたいへんです。アドバイスをいただけますか。
充 日本でやっている立場から言わせてもらうと、まず舞台人としての誇りを持ってほしいですね。経済的にはなかなか一人前にはなれないこともあるかもしれないけど、ミュージカルだって演劇だって、やっている人たちの条件は同じ。彼らは一つ一つの公演に輝きを自分たちでつくり出す、そして次の舞台の時には必ずステイタスが上がっている。私自身、日本でダンサーとしてやれたのも、いろいろな先生方との舞台を評価されるように一生懸命やったから次の舞台につながるということがあった。カンパニーに頼らずに、一つ一つの舞台を成功させようという舞台人としての自覚を持つこと。そうしたらおのずと呼ばれたりとか招かれたりというふうになれると思うんです。
欧米ではバレエをやめたら何をやろうと考えて、そこにいる間に料理学校に行ったりなどいろいろなことをしている人もいるそうですが。
元 バレエをやめた人がさっきの学業との両立と同じように、弁護士になったり、フィジカル・セラピーのドクターになったりということは多いですよ。バレエは、毎日のトレーニングで自分を厳しく鍛えていく。その習慣を、ほかの分野に生かして次の職業に行かれると思うんです。結局、ただバレエをやっていることだけが自分の夢や希望を達成させることではないということですよね。
充 アメリカでは一つ達成すると次のステップがあって弁護士になる、パイロットになるという生き方がある。我々の場合はバレエがすべてというかたちで取りこんじゃっているから、逆に言えば人間関係がすべてですよね。だから先生方、仲間、先輩後輩とのコミュニケーションすべてがうまくいかないと。私は子ども達に言っているのは、舞台は人間関係がすべて。それがなくなったらあなたたち舞台を去らなきゃだめだ、だからたとえば一つの舞台が終わったらお礼の手紙を書きなさい、メールでもいいから挨拶をしなさい、と。終身雇用の世界もあるけど踊りにはそれがない。だから礼儀は大切ですね。
元 彼はそういう意味では僕みたいに大きな団体に所属していたわけじゃないから、人間関係だけでここまで来たのはすごいことだと思う。
テクニックと身体が追いかけっこするバレエにはゴールがない
ほんとに充さんは幅広い舞台に立っていますね。最後にお二人に改めてバレエの魅力を語っていただきたいのですが。
元 僕の場合は、結局、若い頃はテクニックを身体が追って、ものにして勉強していた。今、自分の身体が落ちてくるから、それに負けないようにテクニックが追っている。そういう意味でゴールがない。常にその年齢でできる範囲のベストを尽くして、この筋肉使えないやと思った時にどこでカバーするか。ああもう跳べないな、跳べなかったらどういうふうに着地をきれいにしようか、もう少し爪先を伸ばして落ちていこうとかいろいろ考えるんです(笑)。だからこそおもしろくてやめられないというのがある。
今、ニューヨークのメトロポリタンハウスで踊ろうというのは僕にはない。お客さんは世界一の旬のダンサーを見るべきだから。セントルイスの本拠地では年に一回コンテンポラリー作品があります。そこで工夫した作品のなかで踊れたらいいかな、と。つい3年くらい前にバリシニコフの舞台を見ました。彼はセントルイスにも来て、素晴らしいのは跳ぼうとも回ろうともしないけど爪先がすごくきれいなんです。僕は彼を間近に見てきたんだけど、そんな今の彼の舞台を見ることで昔の彼の姿が見えてきた。そこで見せてくれている50のものが僕の頭の中で100に、1000にふくらんでくる。そういうふうなダンサーでありたい。自分は今、50しかできないけど、だけどもっと広がるあなたたちが、広げてくださいっていう、そういうことができるのがバレエだと思う。
観客のイマジネーションを刺激するということは素敵なことですね。充さんはいかがですか?
充 楽しくて好きで続けてきたバレエですが、考えてみると西洋舞踊の美しさに魅せられてやってきた。こうして年齢も重ねて体力的に違っても、西洋舞踊の美しさだけは踊り続けたいっていう思いだけは今もまだ変わらない。追い求めるものがあるのかな。今は、コマーシャルだって、ダンスなのかムーブメントなのかわからないのがあって、ダンスでくくられているけど。我々が好きなのはモダンダンス、ミュージカルも含めた西洋舞踊。ただしコンテンポラリーでも靴をはいてやったりしているのはイベントでやっていればいい。舞台人だから舞台の上で表現できるのがほんもののダンスではないかなと。演劇、音楽、舞踊っていわれるものの本質は残していくべきだ、というのがやっぱり自分を支えている一つの信念かなと思っています。
セントルイス・バレエ団芸術監督である堀内元とダンサー・振付家の堀内充による
4作品の同時上演
公演予告映像
[曲目・演目]
堀内元『Little Diamonds』『Wake Up』
堀内充『Vogue』『Paraphrase』
[日時]
2013年5月31日(金)
開場:18:30 開演19:00
[会場]
めぐろパーシモンホール 大ホール(東京都)
[問い合わせ先]
バレエスタジオ HORIUCHI
Tel:03-3407-4704
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