(2014.10.6 update)
カルメンの奔放と激しさ、アンナ・カレーニナの一途と優雅さ、ジゼルの可憐と純粋さ。日本を代表する“踊る女優”は、昨年から今夏の舞台でもドラマを自在に紡ぎ出して客席を圧倒した。天性のたおやかさのなかには、人なつこさと可愛らしさものぞいて、出会う者の心をつかんでは離さない。
Interview,Text : 林 愛子 Aiko Hayashi
言ってしまったら前進のみしかなかった
東京では小林紀子先生のところで勉強なさったんですね。今は、海外で勉強や仕事をしたりする人も増えましたが、海外へはどのような経緯でいらしたのですか?
日本バレエ協会の島田会長から、もう紀子ちゃんのところをやめるのか?と聞かれまして、私も決めたら一筋なので、ハイって返事をしてしまったんですね。それともっともっと外に行きたいという思いがどうしても強かったんです。ああ言ってしまった、そうすると前進のみしかなかったので、バカなんですよね、突っ走ったら突っ走ったで、振り返ると、なんてことしてしまったんだろうとは思うけど。小林先生のところを退団して、しばらくフリーでしたが、女性でフリーはいなかった。6年ぐらいは大変で、お金もないし、今のようにオープンクラスみたいなのもなくてレッスンするところがないんですよ。
じゃ、おうちでレッスンを?
はい、四畳半一間で(笑)。四畳半とキッチン、お手洗いも共同。階段を上がってお部屋が三つあって、学生さんやサラリーマンの方が住んでいて。お風呂がないので、スタジオのシャワーを浴びていました。あとは流しにバケツでお湯を入れたり(笑)。レッスンはキッチンの前のちょっとした板の間で、ジャンプはできないんですが(笑)、そこでけっこう自習していました。下の大家さんからはうるさいので出ていってくれと言われて2年で引っ越し(笑)、次もバス・トイレなしで。でも今思うと懐かしいです。(笑)。
4、5年、一人でそういう生活をして。そして篠原と一緒になって、その時も二人でお風呂がないところからスタートしましたから、彼のほうが大変だったんじゃないでしょうか。スターだったから(笑)。
日本を代表する王子様でしたから(笑)。でも素敵なお話ですね。
でもその時に、このままではいけないと思ったんですね。それで外国でキャリアをつめば、帰ってきて認めていただけるのかしら、と。日本では何の進展もなかった。オーディションでお願いをすれば見ていただけるけど、なかなか難しい。ちょうど21、22歳の一番踊りたい時、一番力がつく時にチャンスがない。結婚していたんですけど、篠原に相談したら、在外研修という制度がある事を知りました。でもどうして?と聞かれて、これからバレエをやっていくのに自分で力をつけないとこの世界ではやっていけないから、と。でも、行ってみてあんなに大変だとは思っていなかった(笑)。
それでまず在外研修でバーミンガム・ロイヤル・バレエにいらした。
いろいろな先生に助けていただきましたが、スター・ダンサーズバレエ団の太刀川先生が、バーミンガムだったらピーター・ライトさんがいるわよと、推薦状を書いてくださった。ピーターは太刀川先生の推薦だったら間違いない、と。太刀川先生に出会えたのは、スター・ダンサーズバレエ団で、朝のレッスンに出ていた関係でした。それから線路に乗せていただいた。
もともと海外には早くからご縁がおありでしたね。
川副先生はロシア系でしたので、冬休みはダンチェンコとか、研修に行ってそこでお友達ができた。モスクワのコンクールに行った時に、ああこんなことじゃだめだ、もっと頑張らなきゃと思うと目標が上に行く。そういう話を親としていると理解してくれて、このまま福岡にいるよりは、となりました。川副先生には最初は大反対されて、申し訳ない不義理と失礼をしてしまいました。頑張って先生に恩返しができるようにと思っていたんですが、その前に先生が他界なさったのでお礼も申し上げられず…。ご挨拶にうかがう機会もあったのですが、 私のやり方がうまくなくてお会いいただけなかったので、私のなかではすごく後悔があります。あの時、先生が来るなとおっしゃってもなぜ必死で食らいついて一言ご挨拶ができなかったんだろうって。これは私の中で一生の汚点になりますね。
ダンサーとしてミューズとして
率直なお話をありがとうございます。先生も由理恵さんのご活躍をあちらからご覧になっていらっしゃることでしょう。篠原聖一という優れた振付家にとっても、ミューズの下村由理恵がいて、魅力的な味わいある作品が生まれていますね。
私が夢みているのは、彼の作品をもっともっとつくりたいんですね、このまえのPDAのもそうですし。
大阪の男性だけのカンパニーが上演した「Thread」は、ユーモアもあっておもしろい作品でしたね。
あれだけに限らず、デュオ、パ・ド・ドゥ小品集などもあります。今、作品作りが脂に乗ってきていますから、アンサンブルも増えてますし。ただそれ以上大きくなると地方に連れていけないので。今ぐらいのグループで、彼にもっと作品をつくってほしい。私も手伝って、それを残していきたいなと思っているんです。
お二人は公私ともにパートナーですが、ダンサー同士の結婚って良い面はもちろんあるでしょけど、同業ゆえの難しさもおありでしたか?
良いことのほうが私には断然多い。やはり彼は15歳上ですから、彼が引退する時には、彼の内部でも二人の間にも戦いがありましたね、まだ作品を創っていなかったので。そして彼はいろいろ勉強してつくってくれるようになった。私はガンガン踊るようになった。やっぱりこの3、4年ぐらい前から、今が一番楽しいと感じられるようになりました。二人でやりたいっていうことの方向性が見えてきたんですね。
今、舞台も後進の育成も充実しているお二人だから、とにかくお忙しいでしょう?
そうですね、ありがたいことに。けっこう地方の仕事も多いのですが、ふだんは練習もリハーサルも教えもあって、だからバレエずくめの日々で。彼はいろんな事やりたいみたいで、さらに勉強もしたいみたいです。
一方で舞台では佐々木大さんと素晴らしいパートナー・シップを見せてくださって。
私にとって佐々木大君は、私がバレエをやめようと思っていた時に出会い、今では引っ張ってもらっていますから。彼はとてもパワフルな人なんです。
彼が不調の時にも相手役を踊っていらしたのは由理恵さんでした。彼を信じていたからできたのだと思います。
ふと聞いたら、彼自身が踊りたいという気持だけはあると言ったんですね。私も篠原が引退してパートナーがいなくなっちゃった。周りを見たら素敵な人は沢山います、でも私との相性をみたときに、ピンとくる人がいなかった。それまで大君の舞台を見たこともなかったけど、ほんとうにいい出会いだったんです。
Q. 子供の頃に思い描いていた『夢』は何でしたか?
小学生の頃からずーっと踊っていたい。
プリマバレリーナになりたい。
Q. あなたのこれからの『夢』は何ですか?
素晴らしい、またやりがいのある作品に出会えたらなぁ~。
可能な限り踊り続けたいし、まだまだ色んな作品に出会いたい。
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